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2020/12/11

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成年後見制度 助成に制約、現場にしわよせ

朝日新聞デジタル2020年12月6日

認知症などで判断能力が低下した高齢者や障害者らの暮らしや財産を守るため、財産管理や契約手続きを代行する成年後見制度。後見人を担う専門職に支払う報酬を助成する仕組みを多くの自治体が整えているが、適用には制約も多い。専門職がやむなく無報酬で引き受けている例もあり、現場にしわ寄せが来ている。

長崎市社会福祉士の女性(47)は、成年後見の業務を専ら担う。市内の高齢者や障害者計28人を後見人、保佐、補助人として受け持ち、財産管理をしている。月1回程度は訪問し、必要な行政・福祉サービスにつなぐこともある。28人のうち、報酬の目安である月2万円を満額支払っている人は半分に満たない。

受け持っている一人は、障害者施設に入所する男性で、精神障害がある。収入は障害年金生活保護費だけ。施設利用料など毎月10万円ほどの出費があり、手元に残るのは月に数千円だ。親族も高齢で支援を頼るのは難しい。女性は報酬を支払ってもらうのは無理だと判断し、年に1千円の報酬だけで請け負っている。

長崎市には、専門職への報酬を助成する制度が2001年に整備されている。報酬額は、施設入所者は月1万8千円、入所者以外は月2万8千円が上限だ。

ただ、市が対象とするのは、身寄りがない高齢者や障害者で、市が必要性を認めた人だけ。この男性の場合、10年ほど前に親族が利用を家裁に申し立てていたため、助成を受けられなかった。

市は対象を絞る理由について「親族が申し立てたということは、親族からの支援を受けられる可能性が高いためだ」と説明する。女性は「福祉はボランティアでやるのが普通なのか。行政のフォローあっての福祉では」と行政の支援を求めている。

行政の支援が受けられない場合もあることから、県社会福祉士会では、報酬の3%をそれぞれ持ち寄り、低報酬で受け持っている社会福祉士に、分配する仕組みを取っている。

伸び悩む成年後見制度の利用促進を図るための法律が16年に施行され、低所得の高齢者らに報酬の費用などを助成する公的な仕組み(成年後見制度利用支援事業)の整備が、全国の自治体で進んだ。国庫補助を受けた支援事業は19年4月現在、全国の9割の自治体で実施されている。

県内でも全21市町で導入済みだが、助成の条件や内容は各市町で差がある。県弁護士会や県社会福祉士会、県司法書士会の3団体は7月、できるだけ支援の枠組みを統一し、報酬助成のための十分な予算を確保するよう、全21市町に要望書を出した。

長崎市はこれを受け、無報酬に近い案件がどれだけあるのか、まずは現状を把握しようと、弁護士会など3団体を対象にアンケートを配り、現在集計中だ。

ただ、対象の拡大をすれば自治体の支出額も増える。長崎市と人口規模が近い岡山県倉敷市は12年10月、助成対象を親族らが申請したケースにも広げた。11年度に11件だった助成件数は、19年度は138件。予算額も16倍に増えた。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、自治体では財政支出が増える一方、税収は減っており、助成対象の拡大は、より難しくなってきている。

長崎市の担当者は「支援が必要なところに潤沢な支援をしたいが、風呂敷が広げにくい」と苦しい胸の内を話した。(米田悠一郎)

成年後見制度認知症などで判断能力が低下した高齢者らに代わり、財産の管理や物品購入、施設入所の契約手続きなどを行う。本人や親族、首長らの申し立てを受けて家庭裁判所が、身近な親族、弁護士、社会福祉士司法書士などの専門職から選任する。本人の判断能力の度合いに応じて「成年後見人」「保佐人」「補助人」の3種類がある。専門職への報酬は、裁判官の決定に基づいて利用者が支払う。裁判所が示す報酬の目安は月額2万円。