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2019/11/20

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報酬の有無 悩む支え手 新算定ルール、現場とずれ 成年後見はいま 開始20年

2019/11/19西日本新聞

10月下旬、福岡県内のアパートの一室。成年後見制度を利用する80代女性が、面会に訪れた30代の女性司法書士にとつとつと話した。「ほんとにね、先生のおかげで生活できてます」

「いえいえ-」と司法書士。今、無報酬でこの女性の後見人になっている。

司法書士が後見人になって財産を調べると、女性は自己破産寸前だった。人に貸す集合住宅のローンや、以前住んでいた家の家賃などの滞納が膨らんでいた。

まず集合住宅を売って未納に充てることにし、住人に購入を求めた。反発して立ち退き料を求められ、何度も頭を下げた。これとは別にあった賃貸用の家も売却を決め、借り手に転居をお願いした。「住人が怒るのは当然。つらかった」

二つの住宅は売れたが、一時的に所得が入り、医療や介護の自己負担が増加。女性の年金は月約4万円。生活再建は難航し、他の仕事は手に付かなかった。

後見人になって約2年間は約50万円の報酬を得た。業務の量に比べると割に合わないと思う。以降は請求せず今後もしないという。報酬は女性の財産から支払われ、もらうと行き詰まるのが目に見えている。

◇◇

この司法書士は別の高齢者の後見人も、無報酬で続けている。面会時の移動は自転車。バスや電車代は報酬として財産から差し引かれるためだ。「生活が苦しくても制度が利用でき、後見人には報酬が出るようにしないと、引き受け手がいなくなる」と懸念する。

こうした困窮者が制度を使いやすくする仕組みに「利用支援事業」がある。国と自治体が予算を出し、家庭裁判所に利用を申し立てる費用や後見人らに支払う報酬を助成する。だが、全てをカバーできているわけではない。

厚生労働省によると、助成の対象になったのは2017年度、「身寄りがない」などの理由で親族に代わり、市区町村が制度の利用を申請した人が大半。家裁に申し立てるのは全体の7割が本人と親族で、市区町村は2割。事業の恩恵は、この2割に集中する傾向にある。

公の安全網から抜け落ちる人の支援は現状で、後見人の専門家が無償で当たるなど、個別対応に委ねられている。福岡県の女性司法書士が担当する2人も条件を満たさず助成対象から外れていた。

そんな専門家の支援も限界がある。家裁から困窮者の後見人になれないか相談され、無報酬の可能性があると断る例もある。後見人のなり手が限られ、一部の人に負担が集中している。

社会福祉士の現状も厳しい。在宅独居で生活が苦しい人は福祉サービスが欠かせず、家裁が後見人に社会福祉士を選ぶ傾向がある。日本社会福祉士会(東京)によると、会員が後見人などを務める約2万3700件のうち無報酬は864件(今年1月末)。星野美子理事は「家裁からの依頼を引き受けられないほどニーズは多い。一方で利用支援事業は市町村ごとに対象者がばらばら。地域で助成に差が生じている」と語る。

◇◇

後見人になった専門家が本人に面会などをせず、高額な報酬を得ている-。制度は一部の事例で負のイメージが定着した。対策として挙がった国の方針に今、波紋が広がっている。

最高裁判所は今年1月、利用者の財産に応じて報酬額を決める現在の方法を、後見人らの業務量や難易度に応じて算定するよう全国の家裁に促した。

現場の戸惑いは大きい。財産があり、高齢者施設で暮らすような安定した人、困窮などで日々の生活支援が必要でも報酬が支払えない人。専門家は両方の後見人を同時に務め、報酬の帳尻を合わせることが多いためだ。「お金を持たない人の方がやることは多いが、結局は報酬を受け取れない。一方、財産を持ち、手がかからない人からの報酬は少なくなる」。ある司法書士は、現場と国の方針とのずれを指摘する。

本人の財産から報酬を出す現行制度のままでいいのか。誰でも利用でき、後見人らに業務に合った適正な報酬を確保するにはどうするか。抜本的な議論を急ぐ時期に来ている。

(編集委員・河野賢治)