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2020/02/17

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「市民後見人」県内普及遠く 負担重いと敬遠?

2020年2月15日中日新聞福井発

家裁、粘り強く育成支援

認知症や独り暮らしの高齢者が増え「成年後見人」の担い手不足が懸念される中、厚生労働省や家庭裁判所は一般の住民が担う「市民後見人」の育成を自治体に求めている。地域に根差した支援ができる利点があるが、県内で活動している市民後見人はゼロ。過去に数市町が養成講座を開催したが、普及していない。 (波多野智月、梶山佑)

 勝山市の病院の一室。宇佐見恵美子さん(72)は、被後見人の七十代の男性に向かって語り掛ける。「きょうはご飯はちゃんと食べられた?」。答えが返ってくることはめったにない。不審な収入や支出がないか通帳を確認し「また来るね」と握手をして病室を出る。

 勝山市は二〇一三年に市民後見人の養成講座を開催。受講した二十五人のうち五人が活動を続けている。ただ正確には市民後見人とは呼べない。同市の場合、市社会福祉協議会(社協)が法人として後見人となっており、宇佐見さんらは社協に協力する「後見支援員」として財産管理や契約代行をしている。

 厚労省は一一年から市民後見人の育成を推進。高齢者が増える一方で、核家族化で後見人になる親族が減っているためだ。市民後見人は全国でも一一年当時で九十二人しかいなかったが、一八年には三百二十人となり、成年後見人全体の1%弱ながらも増加している。県内では勝山市が唯一、講座の趣旨に沿った運用を続けている形だ。

 勝山市社協によると、昨年度の後見制度利用に関する相談件数は十四件。気軽な相談も含めると少しずつ増えているという。担当者は「支援員は多くが被後見人と同じ地域に住む人。身近な話ができるので心を開きやすい」と話す。

 あわら市でも過去に養成講座を開催したことがあるが、現在は法人としての後見人である社協の職員が支援している。担当者は、市民後見人が普及しない理由を「負担が重いというイメージがあり、尻込みしてしまうのでは」とみる。永平寺町ではいったん始めた法人後見を二年前に休止。現在は福井市を中心とした「嶺北連携中枢都市圏」で成年後見制度全般について議論が続いている。

 こうした状況を受け、福井家裁は一月二十日、「利用しやすい成年後見制度」をテーマに意見交換会を開いた。松井雅典裁判官が「利用すべき人が利用できていないと指摘されている。各地での取り組みを粘り強く後押ししたい」と市民後見人の育成を提案。弁護士や自治体の担当者が広報や市町の連携について意見を出し合った。

 成年後見制度 認知症や知的、精神障害で判断能力が不十分な人を支援するため、家裁が選任する後見人が財産管理などの手続きを行う制度。全国では2018年時点で、全後見人の約65%を弁護士、司法書士、社会福祉士の3専門職が占め、親族の約25%が続く。県内では同年末時点で約1200人が利用している。