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2019/10/14

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公共事業に「高齢者リスク」 認知症などで判断能力低下…対策の必要性を指摘する声も

10/13(日) 8:10配信

西日本新聞

 公共工事の対象区域になった土地を所有者と自治体が売買するのに、財産管理の手法である「家族信託」を活用する事例が出始めている。福岡県筑前町では、高齢の地権者が病気で売買契約を結べなくなるのに備え、家族信託を使って着工できた。公共事業の用地取得では、地権者の判断能力が認知症などで低下し、契約できないリスクが高まっている。識者は対策の必要性を指摘する。

同町の事業は町道の拡幅工事。80代男性が対象区域の土地と建物を所有しており、2017年夏に用地売却を内諾した。その後に病気が悪化し、土地や建物の管理、処分を長男に任せる家族信託を開始。長男が町と契約した。判断能力が十分でない人が結んだ不動産売買契約などは、判例で無効とされており、20年4月の民法改正でも明文化される。長男は「父は会話が徐々に難しくなった。契約事務が止まらなくてよかった」と話し、町建設課は「最悪の場合、着工できなかった」と説明する。

用地取得に関する国や自治体の団体「用地対策連絡会全国協議会」によると、地権者の高齢化で取得が難航する例は各地にある。同町の例で信託を設計した司法書士には、3自治体から問い合わせがあった。一般社団法人「家族信託普及協会」(東京)は用地取得に家族信託が活用された実績を集計していないが、「沖縄県などで事例が出ている」(担当者)という。東京でも活用例がある。

 地権者が土地売買契約を結ぶ行為は成年後見制度で代行できるが、親族以外の専門家が後見人になることが多く、報酬を支払い続ける必要もある。生前贈与は条件次第で贈与税負担が相続税より重くなる。家族信託は身内が財産を管理し、贈与税がかからない内容にもできるため、活用されているとみられる。

早稲田大大学院の山野目章夫教授(民法)は「家族信託は契約時に地権者に判断能力があり、親族間に争いがなければ、通常の『任意取得』と同じで選択肢の一つになる。ただ、利用するかはあくまで個人の判断。災害復旧や防災など、急を要する現場で用地取得にリスクがあると事業に影響する恐れがあり、家族信託以外にも対策を考える必要がある」と指摘する。