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物の売り買いなどの日常生活を支える民法の中の契約の規定が大きく変わろうとしている。民法の債権分野をめぐり、法務省は諮問機関、法制審議会の民法部会に改正原案を提示した。企業が消費者に契約条件として示す「約款」を法律で定義し、賃貸住宅入居の際に支払う敷金の返還ルールを明記するなど、消費者保護のための法的根拠を設けることが柱になっている。分かりやすく、市民目線の改正を求めたい。
民法は、日々の生活に関わる最も基本的なルールを定めた「私法の一般法」だが、債権分野の大幅改正は1896年の制定以来初。インターネット取引の拡大など経済活動の多様化が背景にあり、制定当時にはなかったトラブルの増加で時代に合わせた改正が課題だった。
携帯電話や電気・ガス、保険、クレジットカードなどの契約の際に示される約款は、専門的で細かい文字がぎっしりと埋まっているため消費者は読まずに済ませるケースがほとんど。改正原案では「定型約款」の規定を新設し、消費者の利益を不当に害する内容は無効との条項を盛り込んだ。トラブル防止やその減少が期待される。
このほか、認知症など意思能力がない人の契約は無効とする規定の新設、賃貸住宅の入居時に支払う敷金の返還規定、法定利率を年5%から年3%に引き下げた上での変動制導入など、改正は約200項目に上る。消費者保護、高齢化、低金利時代を踏まえた。
法務省が契約ルールの明文化を目指すのは、難解な規定がトラブルを助長しているとの問題意識もある。法律家だけが理解できる解釈論は民法を市民から縁遠くさせてしまうからだ。
戦後の家制度廃止に伴い家族法の領域は全面改正されたが、契約についてはほとんど変わらない。1999年に禁治産・準禁治産制度が廃止されて成年後見制度ができ、2004年にはカタカナ文語体の条文がひらがな口語体に変わった。しかし、民法典そのものは難解なままだ。
法務省は来年2月までに答申を得て、通常国会に改正案を提出する方針。企業活動が制約されるとの懸念や反対意見も根強いが、法改正は消費者保護の観点から急務であり、「分かりやすい民法」への第一歩と受け止めたい。