ニュース・お知らせ
東京新聞12月12日
成年後見人を付けた認知症や知的障害がある人たち(被後見人)が十四日投開票の衆院選を待ちわびている。昨年五月の公職選挙法改正で選挙権を回復してから初の衆院選となるからだ。関係者は一票の権利を行使する準備に余念がない。ただ、権利回復後初の国政選だった昨年夏の参院選では、投票を手助けする仕組みの課題が浮き彫りに。関係者は「安心して投票できるように改善を」と訴えている。 (荒井六貴、上野実輝彦)
埼玉県神川町の浅見寛子さん(59)は「(投票が)楽しみ」と本番に向け、候補者名と政党名を書き間違えないよう練習している。
寛子さんは生まれつき知的障害があるが、日常生活は自分でこなす。だが、交通事故に遭って裁判を起こすことになり、二〇一一年に姉の豊子さん(66)を成年後見人として付けた。
改正前の公選法は、後見人が付くと選挙権を失うという規定があったため、寛子さんは選挙権を失った。後見人を付ける前までは投票をほとんど欠かさなかったが、一二年十二月の衆院選は投票できなかった。
寛子さんやほかの被後見人がこの制度を不服として各地の裁判所に提訴。東京地裁が違憲判決を出したことで一三年五月に法改正され被後見人は選挙権を回復した。被後見人は一三年末現在で約十四万四千人。
寛子さんは公約を読んでもらったりして投票先を決めた。豊子さんは「参院選では『困った人を助ける』と主張した候補者を選んでいた。今回は、候補者の目がしっかりしているかを基準にしているようです」と話す。
しかし、知的障害のある人が文字を読むのが苦手な場合、投票所では候補者の氏名しか掲示されないため投票先を決めにくい。豊子さんも「投票用紙を記入するブース内に、写真をつけてほしい。誰に投票するか忘れずに済む」と話す。
知的障害があり、読み書きが苦手な米田光晴さん(65)=神奈川県茅ケ崎市=も「(政策などが)読めないので読み上げてくれる機器があるといい」と話す。
投票所での顔写真掲示は公職選挙法で規制されている。昨年六月成立の障害者差別解消法(一六年四月施行)でも、車いすが入りやすいようスロープを用意するなど従来と大差ない対策の義務化にとどまった。
支援団体の「成年後見制度選挙権を考える会」は今月二日、昨年の参院選を踏まえ総務省に「受付に『補助希望』のカードの掲示を」「候補者をタッチパネルで選べるとよい」などの要望書を提出した。提出した杉浦ひとみ弁護士は「障害者が自分から支援を求めるのは難しい。安心して投票できる中身を整える必要がある」と説明する。
衆院選の公約では、ほとんどの党が障害者支援を掲げたが、投票時の不便解消に言及した党はない。
<成年後見制度> 認知症や知的障害で判断能力が不十分な成人の財産管理や契約行為を支援する制度。2000年に禁治産、準禁治産制度を廃止し導入された。本人がした不利益な契約を取り消したり、代理で契約したりできる。判断能力に応じ後見、保佐、補助の3種類がある。