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京都新聞 11月23日(日)
京都府向日市の青酸化合物殺害事件で、殺人容疑で逮捕された筧千佐子容疑者(67)が公正証書遺言を交際相手に求めていたことが22日、浮上した。公正証書遺言の作成件数は年々増加し、日本公証人連合会の説明では、昨年は約9万6千件と15年前の約2倍となった。身寄りがなかったり、特定の親しい人に財産分与を希望したりする高齢者が増えたことなどが背景にある。一方で専門家は「公正証書遺言は、法定相続人の親族に相談なく作成でき、悪用される余地がある」と注意を呼びかける。
公正証書遺言は自筆の遺言と異なり、裁判官や検察官経験者ら公証人と遺言者に加え、証人2人が立ち会ってまとめる。裁判所の判決と同等の効力があり、死後速やかに遺言内容を実現できる。家庭裁判所で相続人が遺言の内容を確認する手続きが不要なことも利点だ。
一方、法定相続人に確認せずに作成できるため、作成者の死後、法定相続人が遺産を巡り訴訟を起こすなど、もめ事に発展する例もあるという。公証人は、公正証書遺言をする本人と接する機会が限られるため、周囲の人間関係まで把握するのは難しい。
向日市の事件とは異なる課題も浮かぶ。2009年には、高松高裁が「遺言書は替え玉を使って作成した」と、本人をかたる人物が印鑑証明書と実印を使って、公正証書遺言の作成に関わったと認定。相続人に遺産の返還を命じる判決を下した。また認知症の人が増えたことに伴い、成年後見人に選任された弁護士や司法書士らと親族間で財産を巡るトラブルも増えている。
相続に詳しい京都弁護士会の豊福誠二弁護士は「古くて新しい問題だが、遺言は、本人が相続人に秘密で作成する自由があり、死後に公正証書遺言を無効化することも難しい。悪用を防ぐ抜本的な解決策はない」と指摘。その上で「本人確認を厳密にしたり、親密な親族関係を築いて財産を管理したりして、さまざまな防止策を講じていくのが大切だ」と指摘する。