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西日本新聞(2014年10月16日掲載)
「8年間も真面目に後見人を務めてきたのに、なぜ負担が増えて使いづらい『支援信託』を利用しないといけないのでしょうか」。認知症の母=8月に90歳で死去=の成年後見人を務めていた福岡県大野城市の自営業甫足正彦さん(59)から、こんな声が寄せられた。調べてみると、2年前に新設された「後見制度支援信託」は周知不足などもあり、トラブルは少なくないようだ。
甫足さんは2006年、母の法定後見人に選任された。以後、母の年金などを地方銀行に預け、要介護5の母が入居する有料老人ホームの費用(月約20万円)を支払うなど預貯金を管理し、福岡家庭裁判所への年1回の報告も怠らなかった。
今年5月に突然、家裁から後見制度支援信託の利用を促す文書が郵送された。支援信託は2012年2月に導入。被後見人の財産のうち、日常生活に必要な一定額を後見人が管理し、通常使用しない財産は信託銀行などに預け、臨時の払い戻しや解約には家裁の指示書が必要となる。後見人による着服や横領などの不正が相次いだことから設けられた。
甫足さんの場合、利用に向けた財産調査などで3カ月程度は弁護士や司法書士などの「専門職後見人」の選任が必要で「25万円前後の報酬」を支払うようにと説明された。信託銀行の利率は地銀より低く、手数料が必要な場合もあった。
「経済的負担の増加と、『疑われている』という不快感」から拒否した甫足さんに対し、家裁は専門職の報酬を「15万円程度」に“値下げ”したという。家裁と交渉している間に母が急死し、利用には至らなかったが「説明は一方的で報酬などの基準もあいまい。本人の財産を守る目的と反しているのではないか」と訴える。
福岡家裁によると、導入当初は新規に成年後見制度を申し立てた人に限って支援信託の利用を促していたが、昨年から継続中の後見人にも利用を促し始めた。通知に強制力はなく、あくまでも「提案」という。
「一定の金銭財産があり、きちんと管理している後見人」(福岡家裁)が通知対象になる。このため「『真面目にやっているのになぜ』と不満を感じる人が多く、トラブルになりやすい」(市内の司法書士)という。
また、専門職後見人の報酬は、業務内容量や被後見人の資産状況によって裁判官が決める。甫足さんへの“値下げ”について、家裁は「あくまでも目安なのに説明が不十分だった」としている。
福岡家裁によると、県内での支援信託締結件数は約50件にとどまる。利用を促しても「地元の金融機関との関係を断ちたくない」「利率が悪い」などの理由で、利用に至るのは「半分程度」という。
認知症の人は予備軍も含めると、800万人に上り、65歳以上の4人に1人という時代。独居や高齢者だけの世帯も増え、詐欺被害などのターゲットになりがちだ。認知症の人の財産や生活を守るため、今後も成年後見制度の需要は高まるだろう。より使いやすい制度設計と、より丁寧な説明が求められる。




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