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毎日新聞 5月10日(土)
全国の病院の2割、介護施設の3割が「身元保証人」を入院や入所の必要条件としていることが、民間団体の調査で分かった。頼める相手がおらず、必要な医療や介護を受けられない単身者や高齢者が現実に出ており、個人の身元保証に代わる新たな仕組みを設ける必要性が浮かんだ。
病院や介護施設が身元保証人を求めるのは長年の慣習だが、法律上明確な根拠はない。これにより一部の利用者が排除されかねないとの指摘は以前からあったが、詳しい実態が明らかになるのは初めて。調査は、認知症の高齢者や障害者の成年後見人を務める司法書士の全国組織「成年後見センター・リーガルサポート」が実施。全国1521の病院と介護施設に聞き、603(病院97、介護施設506)から回答を得た。
それによると、「入院・入所時に身元保証人を求める」との回答は病院で95.9%、介護施設で91.3%を占め、ほぼ例外なく要求される現実がある。さらに、身元保証人を必要条件とし、「立てられない場合は利用を認めない」としたのは、病院で22.6%、介護施設で30.7%に上った。
保証人が見つからない場合、6割前後の病院・介護施設が「成年後見人に身元保証を求める」とした。だが、後見人が入院費や利用料を肩代わりすると、利用者を支援する立場にありながら債務の返済を求める矛盾した関係となる。リーガルサポートは、成年後見人が身元保証人となることを「避けるべきだ」とし、ほぼ全ての病院・介護施設が「公的機関による保証が必要だ」と回答した。
身元保証人を立てられず入院・入所を断られるケースは実際に起きている。
「保証人代行問題被害者の会」に寄せられた相談には、病院に入院する際に身元保証人を確保できなかった患者が、インターネットで見つけた保証人紹介業者に高額の利用料を支払ったのに保証人の紹介を受けられなかった事例がある。
また、浜松市の榛葉(しんば)隆雄司法書士によると、知人の30代男性は皮膚科で日帰りの手術を受ける際、身元保証人を求められた。検査後、男性が「見つからないので手術は別の病院で受ける」と伝えると、検査データの提供を拒まれ、検査料を請求されたという。
さらに、榛葉氏が成年後見人を担当した80代男性が介護施設に入所する際、身元保証人を求められたが見つからず、「後見人が財産を管理しており、利用料の支払いは問題ない」と説明。施設は「(身元保証人を不要とする)例外を作りたくない」とし、なかなか入所を認めなかった。地域のケアマネジャーが要介護者を介護施設に入れる際、身元保証人が見つからず、仕方なく自分が引き受ける事例も珍しくないという。
今回の調査を実施したリーガルサポート・制度改善検討委員会の田尻世津子委員長は「身元保証人の役割は金銭保証から治療や介護の内容への同意、死亡後の対処まで幅広い。それぞれの機能を分析し、それに代わる仕組みを考える必要がある」と話す。
【ことば】身元保証人
病院への入院や施設への入所のほか、企業に就職する際にも求められることが多い。戦前の1933年にできた「身元保証法」は、採用時に企業が求める身元保証人についての規定があるだけで、入院・入所時については法令の根拠はなく、習慣上求められてきた。
◇解説 新たな支援態勢を
身元保証人の慣習は、地縁や血縁の結びつきが維持され、収入の安定した正規雇用中心の社会を前提に長く続いてきた。だが、非正規雇用の増加や高齢化、無縁社会化で頼るべき相手を持たない人が増える中、必要なサービスの享受を阻む「壁」となりつつある。
個人ではなく、地域や組織で身元保証機能を果たそうという試みは、すでに始まっている。あるNPO法人は、身寄りのない高齢者の預託金を管理し、入院・入所の際に身元保証人を引き受けるサービスを提供。身元保証や退院・退所時の対応を有料で引き受ける社団法人もある。
地域に根を張る社会福祉協議会でも「保証人支援」「保証機能サービス」をうたうところが現れた。身元保証人を確保できないケースで、社協が「いざという時の金を預かっている」と説明し、利用を認めてもらう仕組みだ。
こうしたセーフティーネットの利用者は年々増えているが、高額の資金が必要なケースもあり、十分に機能しているとは言い難い。個人による身元保証を根本から見直し、自治体や公的組織も含めた新しい保証のあり方を考え出す時に来ている。