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北海道新聞 3月18日
認知症の高齢男性が民事訴訟を起こされ、訴えられたことを認識しないまま「欠席裁判」で敗訴する判決が昨年暮れ、札幌地裁で言い渡された。訴えた不動産会社の請求通り、男性の自宅を競売にかける判決が確定した。男性は住む家を失う可能性がある。高齢化が進む中、認知症などで判断能力が不十分な高齢者らは少なくないとみられ、専門家は、民事訴訟の当事者の判断能力を確認したり、成年後見制度により自衛したりする必要性を指摘している。
12月25日、札幌地裁の法廷。無人の被告席に、判決が告げられた。「別紙目録記載の建物の競売を命じる」。札幌市中央区にある男性(87)の自宅を競売にかけ、共同で所有する原告の不動産会社と代金を分け合え、という内容だ。
男性は認知症。数年前、中古車を購入したが、年金が銀行口座に振り込まれるたびに引き出してしまうため、ローンが引き落とされない状態が続いた。このため自宅を差し押さえられ競売にかけられたが、親族が事情を説明していったんは競売を免れた。
訴えを起こした不動産会社は、競売情報を日常的にチェックしており、自宅を共同所有していた男性の元妻から約2割の所有権を購入。男性に対して残る約8割の所有権を売るよう持ちかけたが断られ、2013年10月に提訴した。
男性は、精神障害2級で障害者手帳を持つ長男と2人で暮らしている。訴状が自宅に郵送された際、受け取りの確認書類には男性か長男がサインしたとみられるが、親族はいずれにしても「内容を理解できていなかった」と言う。
裁判所は、書類に署名があったため、訴えを正式に受理した。ところが男性は法廷に姿を現さず、民事訴訟法の規定に基づき、不動産会社の主張を認めたとみなされてしまった。男性は敗訴し、控訴もしなかったため、敗訴が確定した。
男性の判断能力について、かかりつけ医は「財産を管理できない最低レベル」とする。男性は取材に対し、「(裁判について)そんなものは知らない」と話した。
判決の確定後、親族は弁護士に相談。弁護士は「男性には訴訟を遂行する判断能力はなかった。判決に基づく競売は無効」と競売差し止めの仮処分を求める考えで、「民事訴訟の訴状を送付する際、被告の判断能力はチェックされておらず制度上の欠陥といえる」と話す。