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■弁護士の相談窓口も
日弁連は相次ぐ不祥事を問題視し、25年2月、全国の弁護士会に対し不祥事対策を要請。複数の苦情が寄せられている弁護士に対しては事情聴取や指導を行い、不祥事に発展させないよう求めた。
また、同年6月には、全国の弁護士約50人で構成する「弁護士職務の適正化に関する委員会」を設立。各弁護士会の不祥事防止策を協議している。
委員会は対策の一つとして、事務所の経営や依頼人への対応でストレスを抱える弁護士を対象にした相談窓口などを検討。こうした取り組みはすでに一部の弁護士会が始めており、近く、各弁護士会にも設置を要請するという。
日弁連の担当者は「一部の不祥事や非行は全ての弁護士の信頼を傷付けることになりかねず、弁護士会全体で対策に取り組まなければならない」と危機感を募らせる。
■背景に過当競争
事実、弁護士に対する苦情や懲戒請求の申し立ては全国的に増えている。
日弁連によると、各弁護士会の市民相談窓口に寄せられた苦情件数は、統計を始めた15年は6646件だったが、23年には1万1129件に増加。懲戒請求も15年の1127件に対し、23年は約1885件に増えた。
こうした傾向について、国際法曹倫理学会理事で名古屋大法科大学院の森際康友教授(法哲学)は「依頼人の権利意識が高まっているのでは」と分析する一方、「弁護士の増加に伴う競争激化で、一部の弁護士が生活に困り、倫理を問われるような行動を取ることがある」と指摘する。
日弁連の統計によると、弁護士の数は毎年増えており、25年は過去最高の3万3624人。10年前に比べて1万4千人以上増加した。法科大学院制度の影響で、増加傾向に拍車がかかっている。
一方、最高裁の統計では、全国の裁判所で扱われた刑事や民事などの全事件数は20年の約443万3千件から、24年の約379万8千件まで減少。半数近くを占める民事事件も、21年から24年までに約55万件減少した。
森際教授は「金融機関に払いすぎた利息『過払い金』の返還請求訴訟が底をつきつつある」とみており、社会の需要が弁護士の増加に追いついていない状況を指摘する。
■「二割司法」からの脱却
法曹界を批判する「二割司法」という言葉がある。司法が市民の求める役割の二割しか果たしていないという意味だ。こうした批判を踏まえ、法曹界は人材の増強を進めてきた。
しかし、森際教授は「弁護士が従来型の訴訟を中心とした業務形態を続けるのであれば、供給過多といわれても仕方がない。大切なことは職域の拡大だ」と提言する。
法律相談や弁護士費用の支援などを展開する「法テラス」では、高齢化社会を見据え、司法と福祉現場の連携を模索し始めた。
奈良市の「法テラス奈良」では、高齢者が被害に遭いやすい介護現場での虐待や、成年後見人の需要増加を想定し、弁護士と福祉施設職員による意見交換会を開催している。
森際教授は「司法制度がかつていわれた二割司法から脱却するためには、弁護士や自治組織が事件あさりに陥ることなく、埋もれた市民の権利を救済することが必要」と訴える。