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産経新聞2月1日配信
社会正義の実現を目指すはずの弁護士が、トラブルや事件を起こす事例が相次いでいる。奈良県では民事訴訟で弁護した元依頼人に「誠実に職務を遂行しなかった」として懲戒請求を申し立てられた弁護士が、「名誉を毀損(きそん)された」として逆に元依頼人を提訴し、争いが複雑化。全国でも弁護士が詐欺に関与したり、依頼人の預かり金を横領する事件も発生し、日本弁護士連合会(東京)は対策の検討を始めた。平成16年に法科大学院制度がスタートし、弁護士の数が増える一方、民事や刑事などの事件数は減少。こうした背景が業界内の競争を激化させ、トラブルや事件を生んでいると有識者は指摘、弁護士の職域拡大を訴えている。
■元依頼人を提訴した弁護士
奈良県では、昨年大ヒットした人気ドラマの名ぜりふ「やられたらやり返す。倍返しだ!」を地でいくような弁護士の対応ぶりが明らかになった。
奈良弁護士会懲戒委員会の議決書などによると、経過はこうだ。県内の元依頼人の男性が相続で取得した農地を宅地に転用する際、小作権を主張する近隣住民から違約金の支払いを求めて訴えられ、平成16年3月、大阪高裁で解決金300万円を支払い、和解した。
ところが23年8月、農地の賃借契約書が見つかり、近隣住民に小作権がなかったことが判明。確定した和解を覆すのは困難だが、元依頼人から相談を受けた奈良市内の70代の男性弁護士は「何とかなるかも」と弁護を引き受け、同10月、解決金返還などを求めて奈良地裁葛城支部に提訴した。
しかし、24年3月の支部判決は「原告は和解の効力が否定されるべき事情を何も主張しておらず、不当利得返還請求権発生の要件を欠き、認められない」と訴えを棄却した。
元依頼人は「勝つ見込みのない訴訟を起こし、誠実に職務を遂行しなかった」として同7月、弁護士会に男性弁護士の懲戒請求を申し立てた。
これに対し、男性弁護士は懲戒請求を「誹謗(ひぼう)中傷だ」として同11月、逆に元依頼人に160万円の損害賠償を求め、提訴した。
こうした中、奈良弁護士会は男性弁護士の方に「非」があったとして25年11月、「戒告」の懲戒処分を行った。処分の議決書では「(男性弁護士が)依頼者に有利な解決になるよう努力した事実はない」と認定し、元依頼人への提訴を「自己を正当化した報復的な対応だ」と批判。「弁護士の使命に対する自覚を欠く」と結論付けた。
■詐欺や横領…止まぬ不祥事
民事上のトラブルに止まらず、弁護士が関与した刑事事件も後を絶たない。
東京都では25年10月、国有地が安く購入できると嘘を言い、住宅販売会社から約2億2千万円をだまし取ったとして、警視庁捜査2課が詐欺の疑いで、第二東京弁護士会所属の80代の男性弁護士ら6人を逮捕した。
逮捕容疑は23年11月~24年1月、浜松市の住宅販売会社の担当者に、静岡県内の財務省所有の土地2カ所を割安で購入できると偽り、約2億2千万円をだまし取ったとしている。
男性弁護士は日本弁護士連合会常務理事を務めた経歴もあり、「国側の弁護士」として契約締結に関与。弁護士としての信用を悪用したとみられている。
また、兵庫県では25年12月、県弁護士会に所属する尼崎市の30代の男性弁護士が依頼人からの預かり金を横領していたことが発覚。同会によると、被害は数千万円に上る可能性があるという。
同会によると、男性弁護士は24年秋以降、複数の依頼人の預かり金を着服、事務所の経費に充てていた。同会に同年4月以降、顧客から「連絡が取れない」などの苦情が寄せられていた。