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2020/10/21

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認知症、家族の出金容易に 全銀協、来春までに指針 使途や戸籍抄本で確認

2020/10/20付日本経済新聞 朝刊

高齢化が進む中、認知機能が低下した顧客に金融機関がどう対応すべきかの指針やルール作りが進んできた。銀行では家族が本人に代わり預金を引き出す「代理出金」がしやすくなるよう、全国銀行協会が指針をまとめる。証券会社でも高齢者対応の専門職を置く動きがある。70歳以上が保有する金融資産は全体の4割に達する見通しで、業界をあげて対策をとる。

 

全銀協は2021年春までに、認知症または認知機能が低下していると判断した顧客への対応指針をつくる。対象の預金者本人に代わって家族が本人との関係を示す戸籍抄本を示し、医療や介護など使途が明確に確認できる場合は銀行から直接振り込むなどして出金に応じやすくする。

現在は預金者の意思の確認ができなければ、銀行が引き出しに応じないケースもある。本人の資産を守る原則があるためだ。病院の治療費や老人ホームの入居費などのため家族が預金を引き出そうとしても認められないことが多い。

認知機能が低下するとキャッシュカードの暗証番号が分からなくなったり、通帳をなくしたりする事態も起こりやすい。銀行に柔軟な対応を求める声が高まっていた。

高齢化や認知症の増加への対応は待ったなしの課題だ。

 

金融庁が19年に示した予測では、個人金融資産のうち70歳以上が保有する割合は足元の3割から25年には4割を超える。認知症患者の保有額は将来的に200兆円を超えるとの試算もある。金融庁は8月の報告書で、銀行業界としての対応をまとめた指針をつくるよう提言した。

もっとも、認知機能の低下は個人差が大きく、判断が難しい。全銀協は指針で、銀行員が窓口で接した預金者とのやり取りやATMの操作などから、認知機能が低下していると感じた場合、どのように対応すればよいかといった具体的な事例も盛り込む。地域の福祉機関と連携する際の個人情報の共有についても手引をまとめる。

個別行では、あらかじめ指定した代理人の口座に本人のお金を送金できる商品を用意している信託銀行もある。各銀行の先進的な取り組みや商品などの事例も指針で紹介し、業界全体の対応力の底上げを狙う。

預金以外の金融商品販売でも取り組みが始まっている。野村ホールディングスや三菱UFJ信託銀行は慶応義塾大学と組み、日本金融ジェロントロジー協会を立ち上げた。認知科学や脳神経科学、心理学などを組み合わせ最適な高齢者向け金融サービスのあり方を研究する枠組みだ。人材育成のための研修プログラムなどを開発している。

野村証券は高齢者対応の専門職「ハートフルパートナー」を導入し、ほぼ全国の支店で170人体制に広がっている。担当者は転勤を伴う人事異動のない社員から選び、同じ顧客を長く担当させることで、認知機能の低下などの変化を把握しやすくする。

米国では02年に米国ファイナンシャル・ジェロントロジー協会が設立され、金融機関向け研修などに取り組んでいる。先進国の中でも高齢化が進んでいる日本は指針作りが始まった段階で、対策を急ぐ必要がありそうだ。